私のモンスト日記

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辻村深月「冷たい校舎の時は止まる(下)」

 辻村さんデビュー作の後編。全編を読んですぐに予約を入れたのだが、京都市の図書館に2冊しか置いていないこともあって、手元に届くまでにずいぶんかかってしまった。永い1ヶ月だった…(遠い目)。

 雪の降り積もる中、不思議な力によって校舎の中に閉じ込められた8人の生徒たち。携帯は圏外となり、全ての時計が5時53分で停止する。そして彼らは、2ヶ月前の学園祭最終日に飛び降り自殺を遂げたクラスメートの名前を、なぜか思い出すことができない。

 ひょっとしたらここにいる8人のうちの誰かが、自殺した生徒ではないのか? そしてこの世界は、その生徒が創り出したものではないのか? そんな思いに駆られる中、突然校舎のチャイムが鳴り、彼らのうちの1人が姿を消してしまう。そして時計が再び動き出すところで、上巻は終わっていた。

 上巻の終わりで姿を消した生徒の他にも、何か起きた様子の生徒が2人いたのだが、結局彼らも同じ運命を辿ったようである。そして下巻では、さらに1人、また1人と次々に姿を消していく。最後に残るのは誰か? そして自殺したのは誰か? といった流れに乗って、物語は進んでいく。

 途中まではSF学園ドラマといった様相を呈していたのだが、生徒が次々に消えていくあたりからは徐々にスリラーめいた雰囲気に変容していく。とある生徒が謎の存在に追いかけられるところなんか、完全にホラーである。どんどん緊迫感が増していくので、「引き込まれ度」はかなり高かった。

 ただ、よくあるホラー作品みたいに突然襲われたりするわけではないので、「次に消えるのは誰か?」という問題はさほど重要ではない。というか、章が始まると突然とあるメンバーの回想シーンが長々と語られたりするので、その時点で「あ、次はコイツか」と分かってしまったりする(笑)。結局のところ本作はあくまでもミステリーであり、安っぽいホラー要素で驚かそうという意図などはない、ということなのだろう。

 各々の回想シーンは、良く言えば丁寧、悪く言えば冗長である。本筋に関係あるものもないものも取り混ぜて実に細かく語られるので、「ウザい」と思ってしまう人はいるかもしれないな、と思った。いろんなタイプの生徒を取り揃えているので、その中の一人にでも感情移入することができれば御の字、といったところか。

 少々気になったのは、女子生徒が得てして環境が悲惨だったり性格がウジウジしているのに対し、男子生徒が揃いも揃って性格的にイケメンすぎること。若い女性が書いた作品なのでどうしてもそうなってしまうのだろうが、僕みたいなおっさんが読む分にはどうにも鼻について仕方がなかった。

 女子生徒の中に一人タカラヅカ的な人物が混ざっているのも、ちょっとマンガチックに思えてしまった(これは賛否両論ありそうだが)。せっかく男女それぞれ4人ずついるのだから、どうせなら男子生徒側の「闇」の部分も、もう少し描いて欲しかったように思う。

 全19章から成っていて、第16章が「解決編」となっている。その直前にテストの解答用紙みたいなページがあって、「死んだクラスメートは誰か? どうしてそう思うのか?」という設問が提示されている。

 おお、「読者への挑戦」だ。このタイプの作品でこれに出会えるとは思っていなかったので、ちょっと感動してしまった。例によって僕自身は、そんなこと少しも考えてなかったのだけれど(笑)。

 で、その解決編でいよいよ死んだ生徒の名前が明らかになるのだが…ここで「え?」と思った人は多いのではないだろうか。「解決」どころか、さらに謎が深まってしまって、えらく混乱させられてしまった。いや〜ヤラれたなぁ。

 そして第17章以降からが、本当の謎解きになるのである。なるほどそういうことだったのかと、ここでようやく合点がいった次第。ツッコミどころがないわけではないが、概してとてもよく考えられた内容だと思った。辻村さんはこの作品を高校生から大学生の間に書かれたということだが、内容・ボリューム共に、気合が十分に伝わってきた一冊(いや、二冊だけど(笑))である。

 ちょっと長すぎるという印象はあったものの、それだけにしっかりとした読みごたえを感じることができた。とても面白かったので、辻村さんの他の作品も何冊か読んでみることにしたいと思う。

 次は吉川英治文学新人賞の候補となった「凍りのくじら」を読んでみることにしよう。ドラえもんへのオマージュなんだそうだ…え? (笑)